好きだ、と言ってくれた。
あの眼差しは本当なのだろうか?
こんな自分でも―――本当に?
天邪鬼
大嫌いだ。
初めて逢った時にそう思った。
己とは正反対の、仲間等と戯言を紡ぐ男を。
容易く、己の心の内まで入って来る男を。
「寂しくねぇのか?」
不意に、かけられた言葉。真剣な瞳。
「っ―――!煩いっ!」
思わず振り上げた手に、広がる痛み。
殴られた方が痛い筈なのに、男の瞳はまるで己を哀れんで見えた。
「触れ合い方を知らねぇんだな」
じんじんと痺れる手を取り、そっと包み込むごつごつとした大きな手。
「我に触れるな」
絞り出した声は己の物とは程遠く、掠れて今にも掻き消えそうな程弱々しかった。
こんな己は知らない。
「あんたにもそんな面、出来んじゃねぇか」
どのような顔をしていると言うのだろうか。
きっと無様な顔を曝しているのだろう?
「もっと自分に正直に生きてみろよ?」
そう言うと男は去って行った。
「ま…待たぬかっ!!」
引き止めて如何すると言うのか。己の言葉に内心驚いた。
そんな己の声に、少し遠くなった背中が告げる。
「用があるんなら四国まで来りゃぁ良い」
あれから。
結局あの男は戦は自分の負けで良いと書簡を送ってきた。
返事は、出さなかった。
だが何かが胸の奥で燻ったままで。書簡を―――その手蹟を見つめると言い様の無い感情が零れる。
「何だと言うのだ…忌々しい」
あの男にもう一度逢えば、この感情の正体が解るのだろうか?
そんな考えが頭を擡げる。一度湧き上がった考えはぐるぐると回って治まらず。
気付けば筆を取っていた。
「邪魔するぜぇ」
いつもは静寂に包まれた屋敷が、急に騒々しくなる。
「…」
返事を待たずにスパンと小気味の良い音をさせて襖が開けられる。
「人を呼び寄せといてその眉間の皺は何だよ」
言いながらも何処か楽しげに笑う顔。こんなにも人を簡単に不快にさせる男も珍しい。
「煩い。我は騒がしいのは好まぬ」
「そうかい。でも悪ぃが俺は静かに出来ねぇ質なんだわ」
胸の奥の燻りは静まったが、その代わりにふつふつと怒りが込み上げてくる。
「で?今日は何の用だ?話し相手でも欲しくなったか?」
「誰が貴様など!」
どこか茶化す様な口調に思わず声を荒げる。だが男は動じず、口元には変わらず笑みが浮かんでいる。
「じゃぁ一体何の用で呼びつけた?」
男の問いは、己の問い。自分自身、何故この男を呼びつけたのか解らない。
「…貴様に逢ってからの我は調子が狂いっぱなしだ」
ふ、と口を吐いた言葉に男は笑った。
「俺に惚れたか?」
男の言葉にかっと体が熱くなる。
「誰がっ…?!」
突然。男の唇が己のそれに重なり、続けようとした言葉が飲み込まれる。
「っ…!」
力任せに胸を押してみるが、屈強な体はびくともしない。そればかりか、逆に両手首を拘束されてしまう。
一体何を考えているのだろうか、この男は。
一体何だろうと言うのだ、この満たされた感覚は。
「…それがあんたの本当の面か」
漸く解放された時には酸欠で頭がくらくらとして、男の言った言葉に疑問すら浮かばない。
「…俺は初めて逢った時からあんたの事、好きだぜ?」
無骨な手が、意外にも優しく背に回され、頭を抱え込まれた。
「あんたは…俺の事嫌いなんだろうけどな」
自嘲したように笑うと、男はゆっくりと頭を撫でた。
何を、言っているのだろう?好き?男が、男を?
何故、その言葉に安堵を覚えるのだろう?その声音に切なくなるのだろう?
「…嫌いでは、ないのかも知れぬな」
ぽつりと呟けば、男は弾かれた様に離れ、驚いた瞳で己を見た。
己自身も戸惑っていたが、燻りは微塵も無い事に気付く。
嗚呼、きっとこれが本心なのだ。今更気付くとは己も随分と鈍くなったものだ。
嬉しそうに微笑む男の頬に、軽く平手打ちを喰らわせると男は微動だにしないが目を見開いた。
「何す…!」
「先程の無礼へのお返しだ。我の許しも無しに接吻する等、万死に値する所を平手で許してやったのだぞ」
有り難く思え、と続けると男はまた笑った。
「愛の裏返しにしちゃぁ随分と手酷いな。けどまぁ、あんたなりの愛情表現と取っとくぜ」
「元親」
「!」
「我は鬼だ。しかと心せよ」
この様な言い方しか出来ぬが、この男なら許してくれそうな気がする。
そして、それが卑屈な己を変えてくれる予感も…。
「鬼ねぇ…。可愛らしい鬼じゃねぇか。精々頑張らせてもらうさ、天邪鬼」
…纏まんねーっ!!(つд<。)
親就は初書きなので、まだ巧く纏められません…。
かと言って他のCPが纏まりあるかと言われると…(¬_¬;)
男らしいMな元親が大好きです(イイ笑顔