「幸ー!」
今日も今日とて幸村のクラスは騒がしい。
「慶次殿…!!」
登校して来た幸村の姿を見つけるや否や、前田慶次がドタバタと走り寄って来る。
本来ならば人懐こい筈の幸村の顔もどことなく引き攣って見える。
「部活の事、考えてくれたか?!」
挨拶もそこそこにガシっと幸村の肩を掴んで離さない慶次に、幸村の視線はウロウロと彷徨う。
「それがその…某、バイトする事も考えておりますし…」
元来嘘を吐くのが下手くそな男はモゴモゴと口を動かして、やっとの事で言葉を紡ぐ。
だが慶次はその言葉を率直に受け取ったらしく、がくりと頭を垂れた。
「そっかぁ…まぁなー、俺もバイトしてるけど部活との両立はなかなか難しいしな」
その言葉に救われたようにパっと顔を上げ、ここぞとばかりに頷いて便乗する幸村。
「でもさ、思い直したらまた俺に言ってくれよ」
「う…む…」
何だか嘘を吐いたのが申し訳なくて、幸村は俯く。
「あ、バイトだけどさー、まだ決めてないんだったら俺と同じ所にしない?」
次に発せられた慶次の言葉に幸村は苦笑した。
この男は断られる事を幸村程気にしてはいないらしい。
「折角ですが某、自分のしたい事は自分で決めるで御座る」
凛とした声で、意思の固い瞳で告げられて一瞬慶次は言葉を失う。
「そ…だよな!悪い!」
(何…だ?今の感じ…。やべ…)
取り繕ったように笑った慶次の頬は微かに赤味が差していた。
昼休みのチャイムが鳴り、いつものように佐助のクラスへ行こうとした所。
「旦那ー」
不意に相手が現れ、驚いて廊下へと飛び出した。
「佐助!どうしたのだ?某の方から行くのに…」
「それがさぁー、スポーツ大会の役員に選ばれちゃって。これから会議に行かなきゃなんなくてね」
はぁーと深い溜息を吐くと、ずしりと重い弁当箱を幸村の手に乗せる。
「ごめんね、旦那。だから今日はちょっと俺様一緒には食べれないんだわ」
「そうで御座るか…」
明らかにしょんぼりと肩を落とした幸村に佐助は慌てる。
「旦那、ほんとごめん!俺様だって行きたくないんだよ?」
だから今日は友達と―――と、続けた時。
「幸ー!飯一緒に…」
ひょこっと廊下に顔を出した慶次に佐助は一瞬唖然とした。
「け…慶次?!」
「おー、佐助!久しぶり」
二人の言葉に幸村がきょとんと首を傾げる。
「二人は知り合いで御座ったか」
「んー…まぁね。ってか慶次、俺今は先輩なんだからさぁ」
呼び捨てはないっしょーと言いつつ、チラリと慶次の目線をチェックする。
(あちゃぁ…まさか幸村とコイツが同じクラスとはね…。しかもちょっと面倒臭い事になってるし?)
佐助と慶次は去年の体育祭からの付き合いで、それなりに仲は良い。
慶次から恋愛話をされた事もあったし、付き合ってる子と三人で遊びに行った事もある。
だからこそ。
慶次が恋をしてる時の瞳は知っているつもりだ。そして今、正にそう見える。
「そう言えば…幸がいつも昼飯の時にいないのは佐助と一緒にいたから?」
「うむ!佐助はいつも某の弁当を作ってくれるのだ」
「ふぅーん…」
(何その面白く無さそうな顔!…やっぱりコイツ…)
「佐助、会議の方は良いのか?」
幸村の言葉にハっと時計を見、それから目の前の二人を見る。
佐助の頭の中では今忙しなく天秤が揺れていた。
片皿は会議、片皿は目前の二人。
「うーん…」
ガタン!と大きく目前の二人に片皿が傾いた時。
「やーっぱりここに居やがったか」
背後から聞えた声に、佐助はびくっと体を震わせた。
「あ…伊達ちゃん…」
「伊達ちゃん…じゃねェ。役員共がお前を探してたぜ?」
「!」
ニヤニヤと口元を歪める政宗に、佐助はにっこりと笑みを返した。
「伊達ちゃん、今日飯食った?」
「いや?why?」
「んじゃぁ、幸村と一緒に食べてやってよ。勿論、慶次も一緒にね」
訝しむ二人にそう言うとにこりと笑い、幸村の頭をくしゃりと撫でた。
「今日は伊達ちゃんと慶次と一緒にご飯食べな?賑やかで良いだろ?」
佐助の言葉に幸村は頷いた。逆に政宗と慶次の二人は「してやられた」と言った風に佐助を睨む。
「じゃ、御二方!可愛い後輩をヨロシクね!」
そう言うと佐助は早々と立ち去った。
「Shit!佐助め…!」
「…その様子だと…こりゃぁ、この恋はライバルが多そうだ」
「狼と二人きりにする位なら、狼同士で牽制してもらった方がマシだよね」
戦国学園は今日も騒がしい。
ふぅ。一区切り。
今回は慶次を出してみました。
筆頭は出すつもりなかったんだけどなー…あれ?(笑
この後もどんどんキャラ出しますー☆