まったくもう。俺様は優秀な忍なのに…。
―――全部あんたのせいだ。
アンタの為なら
「佐助っ!!」
簡単な任務を終えて真田邸に戻ると、鍛錬中だったのか半裸状態の旦那が駆けて来る。
「無事帰ったか!とりあえず降りて来い!」
屋根の上に居る俺に下でわいわいと騒いでいる主。でも俺はその半裸状態の体に目が釘付け。
幼い頃から見てきているが、いつの間にかこんなに筋肉質になっていたんだなぁ…。
「佐助?どこか痛いのか?」
何を言っても無反応な俺に心配そうな顔をする。
そんな顔も好きなんだよなぁ…あんまりそんな顔させたくはないけどさ。
「いーや、大丈夫だよ?」
言って屋根から地に降り立つ。とっと音も無く着地すると「ほぉっ」と関心した様な声。
「佐助は流石だな」
「何よ急に」
「いや、格好良いなと思って」
その言葉に頬が赤くなりそうだった。危ない、危ない。
この人は凄く真っ直ぐな人なんだった。忍が簡単に感情を表に出してらんねぇっての。
「佐助が今回も無事に帰って来て良かった」
にこりと微笑むと、鍛錬の後片付けの為に庭を駆けて行く彼の人。
情けない位に、貴方の行動、貴方の言葉一つに。
俺の鼓動は高鳴って、振りまわされっぱなしだ。
「はい、旦那」
旦那が庭を片付けている間にちゃっちゃと着替えて、喉が渇いているだろう彼の為にお茶を淹れる。
ついでに任務帰りに買ったお土産の団子も出して仕舞おうか。
夕餉までにはまだ時間があるし、何より体を動かした後では小腹も空いているだろうから。
「おぉっ!やはり流石は佐助だなっ」
言って縁側に腰掛けると、まずは茶を啜り飛びつく様に団子に手を伸ばす。
にこにこと甘味を口に運ぶ旦那を見ていると俺も幸福だ。
「俺は本当に良い部下を持った」
旦那のその言葉につきんと胸のどこかが痛んだ。
叶う筈ないって、解っていても、言い聞かせても。
どうしようもない位、諦めが悪いみたいだ。
俺と貴方の距離は近くて遠い。
傍に居れば居る程、苦しくなってく。
見ないフリしても、聞こえないフリしても
やっぱり俺は貴方の全てに吸いこまれてく。
「なぁ、佐助。これからもずっと俺の傍に居てくれぬか?」
「もちろん。旦那の背中は俺様が護ってるから安心しなよ」
「うむ!俺は佐助が背中を護ってくれていると思うから安心して戦えるのだ」
あぁ、お願いだから。
俺を試す様な事言わないで。
あぁ、お願いだから。
これ以上期待させないで。
「共にお館様が太平の世を達するのをお助けしようぞっ!」
なんて。全然貴方は解ってない。
「そだね。俺様も給料分の働きしなきゃいけないねぇ。旦那の世話とか」
「何をぅっ!」
結局。
振り回されるのはホレた弱みだ。
自分の事は二の次な、危なっかしいアンタを力の限り護っていくさ。
俺に出来るのはせいぜいそれ位だからな。悔しいけれど。
それでも…。
それでも、俺がアンタの幸福を創る事が出来るなら。
俺はアンタの部下で、忍であって良かったと思うよ。心から。
本当はこんな気持ちさえ抱いちゃいけないんだけどね。
いつの間にか俺様は優秀だけど駄目な忍になっちまったみたいだ。
アンタのお陰でね。
佐→幸 ベタボレ。