俺が初めてこの世界の事を知ったのは結構前の事で。

「あー、今日英雄外伝の発売日だったんだ…でも金無いしなぁ」
 ふとTVのCMを見て溜息をつく。お財布の中身は寂しいかな、諭吉さんも一葉さんもいなかった。
「英世さん…も駄目だ三人しかいない」
 ガクリと肩を落として、仕方無く少し古いゲームを引っ張り出す。
「外伝出来なくてもいーもん。俺は2が好きだもーん」
 別に愚痴なんかじゃないもんね。別に発売日に買えなくても良いもんね…等と心の中で呟いてゲームの電源を入れる。
「んー、やっぱ良いなぁ」
 にへにへとOPを見ていると、いつの間にか現れた愛猫が擦り寄って来た。
「鈴!どこにいたんだよ?」
 俺の問に答えるかの様に「にゃぁん」と鳴く鈴に、俺の頬はこれ以上無いって位緩みまくる。
「んー、可愛いねぇ、お前は。おいで」
 胡坐をかいた俺の足の上に乗ると、すぐに丸まってゴロゴロと喉を鳴らす鈴。俺が胡坐をかいている時は決まって鈴はここに落ち着くのだ。
「それにしても、BASARAって楽しいよなぁー…一回位この世界に行ってみてー」
 好きな人なら、誰でもそう思う筈。本当、楽しそうなんだもんなぁー、かなり濃い世界だけど。
「あ、宗様だ。こじゅを先に倒して悶えさせてやろ」
 等とにやにや笑いながらプレーしていると、鈴が身動ぎをして立ちあがる。
「鈴?どした?今お楽しみ中だからかまってあげれないよー?」
 ちらりと目を向ければTVを見るように座る鈴の姿。何だ、鈴も興味あるのかと笑ってもう一度TVに向き直った瞬間。
「なぁ〜お」
 鈴の鳴き声が、異様に耳についた。そう思うと同時に俺は真っ白な光に包まれていた。





 思わず閉じた目をソロソロと開くと、そこは一面の緑。
「はい?」
 思わず後ろを振り返ってみるが、そこにはやはり緑。俺の部屋は跡形もなく綺麗サッパリ無くなっていた。
「うん…何だこれ?」
 パニクりまくって思わず笑いが込み上げる。訳が解らなさすぎる。
「ってか俺にどーしろってのさ、この状況」
 ゲームだったらここで誰かと出逢うフラグが立っても良い筈なんだけど…ほら来た。
 チキ、と首筋に当てられた冷たい何か…何かは敢えて見ない事にする。俺の小さな心臓の為にも。
「あんた、今どっから現れた?南蛮の着物だよね、それ?」
 あれ、この艶のある低音ボイスは…どっかで聞いた事あるぞ?
「えっと…質問に答える前に先に訊いても良いですか?」
「ん?何?」
「あの…ここ、どこですか?」
 何とも間抜けな質問だってのは自分でも重々承知してるよ!だから殺気倍増させるの止めて下さい!!!
「…一応教えてあげるけど、俺様下手な冗談嫌いなんだよねー」
「いやいやいや、本気で訊いてるんですけど!!!」
 再度の沈黙。それに続く溜息。
「ここは奥州。独眼竜のお膝元さ」
 ・
 ・
 ・え?

 マジですか!!!どうやら俺、嘘みたいな事にトリップとやらをかましてしまったらしい。
 って言うか。お前も何で奥州なんかに居るんだよ!
 神様とやらが居るんなら、ちょっとこの状況を説明してくれ。