とりあえず、落ち着こう。話はそれからだ。
 ここは奥州で、目の前に居る人物から考えるに俺はどうやらBASARAの世界にトリップしてしまったようだ。
 原因は不明。帰る方法も今の所不明。
 ヒョイ、と首元に当てられた苦無が退けられて、改めて迷彩さんを見るとあちらさんもジロジロとこちらを見ていた。
 何なんだよ、と文句の一つでも言ってやろうかと思った瞬間、向こうの口が先に言葉を発した。

「あんた…物の怪かい?」
「は?」
 ピリピリとした殺気に産毛が逆立つ。って、いや、ちょっと待て。
 質問の意味解んねーし。つーか訊いたんなら先に回答を聞けよ。
「物の怪って…つまり、あれですよね?雪女とか烏天狗とかその類?」
「うん、そう。それ」
「いや、歴とした人間ですけど…」
 多分な。今までそんな当たり前な事、聞かれた事無いし。
「んじゃぁ、あんたの耳についてる物は何?」
「耳?」
 言われて自分の耳を触…った筈が、なんだかモサモサした物が指に当たって…はい?
 毛…だよな?でも自分の髪では無いし…何だこれ?
「あ、ついでに尻尾もね」
「は?!」
 言われて尻に手をやると、同じくモサっとした毛、と骨の感触が指を掠める。
 軽くパニック起こしてたら、迷彩忍が訝しげな顔でこちらを見ているのに気付く。
「あ、えーと…すいません。俺、人間だと思ってたんですけど、何か違うみたいです」
「は?何言ってんの、あんた」
「いや、ついさっきまで…って言うか…今の今までこんな耳だとは気付かなかったし、俺が知ってる自分の耳はちゃんと人間の形してました。あ、ついでに尻尾も付いてなかったです」
 矢継ぎ早にそう告げると迷彩忍の形の良い眉が歪められる。何かを思案している様なので、とりあえず放置。
 その間、指でその原型を留めていない物やら、尻尾やらを引っ張ってみるとちゃんと感覚があって、それが紛れもなく自分の物だと改めて実感させられた。
 何だかなぁー…ぱっと見、これじゃ猫耳コスじゃないか。しかもオプションに尻尾付き!
 男に猫耳つけて萌える奴はいないだろ、普通。いくら俺が女顔でも、だ。

 そんな事を悶々と考えていると、いつの間にか奴の手が尻尾を握っていた。
「ちょっ、おま、いきなり何すんだっ!」
 力抜ける!と騒ぎ立てれば、尻尾を握った手をマジマジと見てる。
「へー、本物なんだ」
 へたり込んだ俺の腕を取って、立たせるとそのままニコリと笑う。…何か嫌な予感するんですけど。
「とりあえず一緒に来てもらおっかな。あんた、名前は?俺は佐助」
 そう言うと俺を俵担ぎにしやがった!やっぱりか!
…って、違ーう!どこに連れてく気だよ?!ってか俺の意思意見は無視?!」
 って言うか折角奥州に居るんだから、独眼竜に逢いたいんですけどー…。
「うん、却下。独眼竜なんかに逢っても全然良い事ないからね」
 ひ、人の心を読むな!!ってか忍ってマジで何でもアリだな…。
 ぐぐっと腹の下で、佐助の体に力が入る、と同時に視界が目まぐるしく変わる。
「うっ…ぅえぇぇっ」
 気持ち悪っ!ジェットコースターかよ!!!ぐんぐんと風景が流れていくのに目が付いて行かない。
「口閉じとかないと舌噛むよ」
 悠々と言ってのけると忍は更に加速する。と、視界の隅にチラリと何かが鈍く光る。
「え」
 その瞬間、ガクンと速度と高度が落ちた。…ってか落ちてるぅぅぅぅぅっ?!俺、どーなんの?!