のそり、と掛け衾から顔を出せば既に陽が昇っていた。
えっと…うーんと…とりあえずここ俺の部屋じゃないよな。こんな純和室じゃないし。
それにこの衾、かなり上等な物だし。あれ、んじゃ俺今どこに居るの?
低血圧特有の、ボーっとしたユルい頭をフル回転させる。
すると段々と靄が晴れていき、現状をやっとこさ呑み込めた。
「あ、俺今筆頭にお世話になってたんだった」
ばさりと掛け衾をどければひんやりとした冷気が肌を刺す。
「あー…しまった。つい服のまま寝ちまった」
デニムで寝るのは寝苦しくて嫌いなのだが、矢張り疲れていたんだろう。昨日は布団へダイブしてそのままぐっすりだったっけ。
取り敢えずはこの恰好だと目立つし、着物を(貸して)もらえないだろうかと、人を求めて部屋を出…たのは良いが。
「部屋多すぎ。城広すぎ」
これじゃ迷っちゃうよ!ママン!なんて心の中でベソかいてたら、背後に人の気配。と同時に軽やかな声が聞こえた。
「お早う御座います、様。朝餉の支度が整って御座いますので、私がご案内します」
振り向けば俺より少し年上位だろうか。綺麗と言うか、端整な女の人が立っていた。
「あ、えっと」
「申し遅れました。私、女中の紫乃と申します」
にこりと微笑まれ、俺もつられて微笑んだ。こっちに来て初めて逢った女の人だしな!ちょっとテンション上がった!
「皆様お待ちで御座いますよ、さぁ、どうぞこちらへ」
スススと足音も立てずに俺を先導する紫乃さんに付いて行く。
右に二回、真っ直ぐ、左に一回、右に一回、真っ直ぐ………これ絶対迷うわ。暫く紫乃さんに案内してもらおう。
勿論、彼女が良ければの話だけど。
「Hey、!So late。その様子だとゆっくり眠れたみたいだな?」
大広間とでも呼ぶべきか。昨日初めて連れて来られた部屋とはまた別の大きな部屋だ。
そこに昨日と同じ顔ぶれが座っていた。
「お陰様でよく眠れました」
そう言って部屋の入口で立ち尽くす。これ、俺はどこに座れば良いの?
「こっちへ来い。Come to my side」
それ文法的に合ってる?意味は解るけどさ。とか思いつつも宗様の隣には膳が二つ置いてある。
一つはこじゅの前。って事はもう一つが俺の席って事か。恐る恐る宗様の隣に座ると、食事が運ばれて来る。
「…もしかして待たせちゃいました?」
「Don't worry。俺が待つって言ったんだ。異論も無かったしな」
それってやっぱり待たせたって事じゃないか。この時代の人って朝早いんだろうし、物凄く申し訳無いぞ。
「Hey野郎共!今日からここで暮らす事になっただ。良くしてやれよ!」
そう言って宗様は俺の頭を一つ撫でると、食事を始めさせた。各々が何か言ったりしてるけど全部は聴き取れないっての。
「ところで」
「はい?」
「お前、あのPrettyな耳と尻尾はどうした?」
「…男が猫耳なんてあっても可愛くも何とも無いんで、取り敢えず消しときました」
ちなみに、ちゃんと指パッチンで消えました。猫になるのは何となく怖いから止めといたけど。
「Hmm…似合ってたけどな?」
ニィと口角を上げて笑う宗様はちょー格好良いんだけど、俺は似合ってても嬉しくないからスルーの方向で。
「それと…お前何で急に堅苦しい言葉遣いしてんだよ?」
「これからお世話になる訳ですし、城主様には礼儀を尽くすものでしょう?」
ちょっと噛みそうだけど。俺正直敬語は使えるけど嫌いなんだよなー。
「Nonsense!別にそんなモンはいらねェ。普段のお前で良いんだよ」
…宗様、あんたやっぱ格好良いわ。不覚にもキュンキュンきたじゃないか。