朝餉を終えて、これから何しようかなぁとプラプラしていると、背後から急にシャツを掴まれた。
「んぐぇっ!」
 あぶ、危ねってか俺絶対、今一瞬白目剥いてた!(漢字だらけだコノヤロー!)
「俺を殺す気かっ!」
「あぁ、悪いな。つい掴み易い位置だったもんで」
 振り向けば893、いやこじゅが居た。てか、デカっ!昔の人ってちっちぇーんじゃなかったのかよ。
 そらそんだけデカかったら俺の首なんて掴み易いだろーよ。アレだ、ランドセルに肘乗せられるのと同じ原理だな。
「えっと、何か用ですか?」
 チキンで悪いかこのヤロウ。思わず言葉遣い戻っちゃったし、心の中ではあんだけ吠えたけど、やっぱ怖ぇーんだよ!
「あぁ、政宗様から着物を用意してやれと言われたのでな…」
 おぉラッキ☆俺もそれを求めてたんだよ!流石は宗様。何でもお見通しって奴か。
 四次元(以下略)で着物出そうとしたんだけど、出なかったんだよな。こっちで揃う奴はこっちで、って事らしい。
「いつまでもその恰好だと目立つからな。付いて来い」
 言って踵を返すこじゅに付いて行く…ってかめちゃめちゃ早いんですけど!



「…ここだ」
 目当ての部屋に着いた時には俺は軽く息切れしていた。日頃の運動不足が祟ったなぁ…でもこじゅが早いのも悪い。
 スラリと音も無く障子を開けると、広めの簡素な部屋。
「もしかしてここ…」
「俺の部屋だ。とは言っても寝る以外あまり使ってはいないがな」
 そう言うと見事な和箪笥をごぞごぞと探り始める。現代で買うならウン十万位しそうな立派な桐箪笥だな。
「でも小十郎さんのじゃ俺には大きすぎますよ」
「そんな事位言われなくても解っている」
 …俺、もしかしなくてもこじゅに嫌われてるよな?
「…あの」
「何だ」
 一切こっちを見ようともしてくれない。
 何だかなぁ…そりゃこじゅから見たら俺なんて怪しい事この上無いのは解ってるけど、何か哀しい。
「俺、小十郎さんに嫌われる様な事、何かしましたか?俺の存在事態が気に入らないのなら仕方無いですけど…」
 調子こいてちょっとした棘を入れてみた。でもそれで頷かれたら俺、一生立ち直れないけどな!
 やっぱりさ、BASARAファンとしては嫌われたくないって言うか…俺結構こじゅ好きだし。
「………別にお前は何も悪くない。これは俺自身の問題だからな。…悪いな」
 止まっていた手を再開させるこじゅ。うん…何て言うか…ちょっと嬉しかった。それって別に俺が嫌いって訳じゃないって意味だよな?
 俺も小十郎に認めてもらえる様に頑張ろうって思えたし(何を頑張るかはまぁ、おいおい考えるとして)

「これなんてどうだ?」

 武骨な手が差し出したのは青を基調として、綺麗な濃淡に染め上げられた着物。
「綺麗…でっ、でもこんな高そうな物、俺なんかに良いんですか?」
「ここにあるのはそう言う物ばかりだからな。気に入らねぇんなら呉服屋にでも行くか?」
「いえっ、そんな滅相も無い!有り難く使わせて頂きます」
 正直、こんな高そうな物を着こなす自信なんて全然無いし、勿体無い。
 でも態々買ってもらうのも悪いしな、なんて思いながら広げてみるとちょっと大きいけど、サイズはまぁ問題無し。
「これ…」
「あぁ、政宗様が昔着てらした物だ。傷んでは無いと思うが…」
「新品同様ですよ」
 さすが殿様。着物もいっぱい持ってんだなー。って言うか、宗様も小さい時あったんだな。
 今なんて俺が165cmちょいだから…178cm位?体もガッシリしてるし。チクショ、羨ましい。
 なんて、貧弱な現代人と武人を比べる方が失礼か…ってか、それ以前に、ここはゲームの世界なんだよな。
 俺からしたらゲームの人物。だけど、ちゃんと小さい時もあって、ちゃんと歩んできた人生があって…。
 ここがゲームの世界ってうっかり忘れるとこだった。
「俺も体鍛えようかなぁ…」
 うっかり心の声を零せば、驚きに見開かれる目。
「あ、いや。護身術程度でも出来れば足手纏いにはならないと思って」
 やべ、今すっげ嬉しかった。こじゅが、フって笑ったんだよ!初めての笑顔がそれって反則だって。