あの後。着物を着せてもらって…これは今すぐ死なせてくれって位恥ずかしかった…。
 付いて来いと言われて、やって来たのは…道場?
 中を覗けば、そこには宗様と他に二つの影。朝餉の時に見たな…。
「お、小十郎にちゃんじゃねーの!」
 大きな声を上げたのは、初めて見た時からその傷の多さに凝視してしまった人だ。
「えっと…」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は伊達成実。んで、こっちの暗そうなのが鬼庭綱元」
 おぉ、ナルミちゃん!モ武将テンコ盛り!
 じゃなくて。

 何て言うか…当たり前の事なのかも解んないけど…ちゃんと生きてんだよな。
 俺からすればゲームの世界。でもこいつ等はちゃんと生きてる。命があるし、人生もある。
 悪戯っ子の目をした成実に、落ち着いた表情を崩さない綱元さん。宗様や、小十郎だってそうだ。

「…で、お前等何の用だ?」
 宗様の言葉に、一瞬真面目になりかけてた思考が飛んだ。珍しく真面目キャラだったってーのに。
「体を鍛えたいそうで、連れて来ました」
 ちょっと待て。いや、確かに俺が言った事だけどさ、いきなりこいつ等相手にしろっての?!
「良い心構えじゃねェか。確かには弱そうだしな」
 弱そうって言うな!あんた等と一緒にされても困るっつーの。
「成実、ちと相手してやんな」
「あいよっ。ちゃん、獲物は何が良い?」
 …いや、だからな。宗様じゃないだけ有難いけどな、一般人に武士の相手が務まるかー!!
「…竹刀でお願いします」
 まぁ、言っても無駄そうだからな。ここは大人しくしてるのが一番賢い、と…思う…。
 これでも剣道習ってたしな、まだ何とかなるだろーよ(投げ遣りだけど)
「成実、手加減してやれよ?」
 宗様の言葉が今の俺には救いです。流石に手抜きなら何とか凌げそうだ。





 甘かった。





 いや、マジで俺、砂糖に練乳かけたのをシロップで固めてそれを更にチョコでコーティングしたお菓子の様に甘かったわ。
 …言っててなんだけど、考えただけで胸焼けした。うえっぷ。
「おーい、ちゃん生きてっかー?」
 目の前でヒラヒラと振られるゴツい手をボンヤリと見上げる。
「あー…何とか、生きてます」
 乾涸びた喉から掠れた声を出すと、成実が眉根は寄ってんだけど、眉尻は下がってるって(意外にも可愛い)変な笑顔を見せた。
「あっぶねー。殺っちまったかと思った」
「殺られたと思いました」
 まさか竹刀で人殺せるとは思わなかったわ。使う人によっては凶器だな、これ。

 どうやら成実ちゃんは阿呆の子らしく、一つの事に熱中したら他の事はスポーンと頭から抜ける仕様みたいで。

 最初の方はニヤニヤ笑いながら、軽ーく打ち込んできてたのを捌いてたんだ。
 んで。練習だし、ニヤけた顔にムカツいたのもあって(実はこれが八割)こっちからも打ち込んでみた。
 そしたらニヤニヤがニヤリになって…。(余談だが、この顔は宗様によく似ていた。流石、血は争えねーってか)
「結構やれんじゃん」
 の言葉と共に激しく打ち込まれて。何回かは捌いたんだけども…その後の記憶が曖昧だ。
 ボンヤリと右手を見ると、何と竹刀が真っ二つ…。このヤロウ何て馬鹿力してやがる!!流石、血は(以下略)
!!大丈夫か?!!」
 目線を上げると、珍しく余裕のなさ気な宗様の顔。これまた意外に可愛い…じゃなくて。
「大丈夫…」
 あちこち痛んで、最早どこが痛いのか解らない体を抱え上げられた。
「医者をの部屋に呼べ!それから成実、後で解ってんだろうな?………逃げるなよ?」
 宗様の言葉にチラリと見えた成実の顔は引き攣った笑顔でした。
 間がこっえー!!!ってか殺されたりしないよな?

 とりあえず俺は宗様に姫抱っこされて(恥ずかしいけど暴れる力も無い…)部屋へと向かった。