「うっわぁぁぁっー!」
 初めて訪れる城下町に馬鹿みたいに騒ぐ俺を、若干驚きつつも微笑ましく見守る佐助の目。
 子供扱いされても今は全然腹が立たないZE!
ちゃん!あんまり俺から離れないで!」
 嬉しさのあまり組んでいた腕を解きかけて、佐助の手がそれを止める。
「そんなに急がないでも町は逃げないよ。ゆっくり行こうね」
 嬉しいんだから仕方ないじゃんかよー。とは言え、佐助が居ないと迷うのは必至だからな。
「先に呉服屋さんに行って、仕立てて貰おっか。帰りに寄る頃には出来あがってるだろうし」
 流石主婦は計画立てるのが上手いな。って事で幸村がお気に入りの呉服屋さんに向かう。
「いらっしゃいませー…って、佐吉さんじゃないですかぁっ!お久しぶりです!」
 店に入った途端、店の子だろうか可愛い声が耳を擽る。ってか佐吉って誰だ。
「お小夜ちゃん、ご無沙汰だね」
 え、と隣を見ればにこやかにお小夜ちゃん?に話しかける佐助の姿。…あ、偽名デスカ。
「今日は如何されたんですか?…随分可愛い方を連れてらっしゃいますけど」
 チクリと刺さる視線を投げかけられて、可愛い方ってのが俺だと気付く。
 …ちょっと待て!俺、男だから!しかも久々に触れ合う女の子に、何故に敵意を持たれにゃならん?!くっそー、これも全部佐助の所為だ!
「あはは、お小夜ちゃん、こう見えてこの子男だから」
「あ、ら…すいません、私ったら!…それで、今日は…」
 俺が男と知った途端、その笑顔かよ…!畜生、女って奴はよー。でも可愛いから許す!
「今日はね、この子の着物を仕立てて欲しくて。俺様がお世話になってる人のお客様だから良い物を頼むよ」
「それなら良い反物があるんですよ!どうぞ、こちらに」
 店の奥、広めの部屋に通されてみれば、ズラリと並んだ反物。前で飾られている物よりも、上質そうな物ばかりだ。
ちゃん、特に好きな色とかある?無かったら俺様が決めちゃっても良い?」
 佐助に聞かれて思わず頷くと、佐助は迷いも無く手に取る。
「これなんかちゃんの白い肌に映えそうだし…色も良いね」
「紅樺色ですか…あまり見ませんが男の方が着ても良いかも知れませんねー。織りも上布ですから、かなり良い物ですよ」
 何だか訳の解らない会話を横でぼへーっと聞いていたら、あれよあれよと決まってしまったらしく。お小夜ちゃんはせっせと俺のサイズを測ってしまった。
「じゃぁ、申の上刻位に来るから…」
「はい、それまでには仕立てておきますね」
 正直置き去りにされた感が否めないけど…まぁ、言われても解んないしな。って事で次だ、次!



ちゃん、ちょっとお腹空かない?」
「そう言えば小腹が減ったかも…」
 あーだこーだ言いながら練り歩いたもんだから、結構疲れたし…。何よりも足が痛い。
「あっちゃー…」
 佐助に連れられて入った甘味屋でこっそりと足を見ると、うわ、血が出てら。鼻緒擦れって奴か…そりゃ痛いわなー。
「どしたの?」
「ん、何でもない」
 とは言ってみたものの。目敏い佐助は俺の足を一目見るなり、柳眉を顰めた。
「何で我慢するの、痛いくせに。…ちょっと待ってな」
 言うが早い。佐助は店の奥へと消えて行き、俺は一気に手持無沙汰になって。さっき佐助が勝手に買った簪を、随分長くなって纏めた髪にぶっ挿した。
 痛みの根源…って言い方は悪いけど、やっぱ痛いし下駄を脱いで足をプランプランさせていると、ふと人影で視界が暗くなる。
「?」
?」
 凛と澄んだ様な、とでも言うべきか。綺麗な声で自分の名前を呼ばれるなんて思ってもなくて。
「え、はい。そうですけ…」
 顔を上げる間もなく鈍い痛みを腹に感じて、ヤバいと思う間もなく首筋への追撃で俺の視界は暗転した。