「おはよーございまーす」
 あれから朝稽古が日課になって、ちょー低血圧な俺でも早起きする事に慣れてきた頃。
 道場に入れば、そこに幸村の姿は無かった。
「あれ?佐助、幸村は?」
「おはよ、ちゃん。真田の旦那、ちょっと用事があってね。今日はお休み」
「そっか…」
 微妙に濁らせた言葉に、俺には言えない用事だと知る。何となくいつもより道場が広く思えて、肩を竦める。
「どうする?今日は辞めとく?」
「んーにゃ、折角早起きしたし、稽古してく」
 そう言って、いつもの様にストレッチをしていると、チラリと視界の端に影が映る。
「ん?」
「どうしたの?ちゃん」
 視線を向けると、そこにはいつもの風景が広がるばかり。
「ん…何でも無い」
 見間違いかな?佐助を見れば、チラリと俺の見ていた場所に視線を向けただけだった。



「ね、ちゃん。城下町行かない?」
 稽古を終えてへばっている所に、佐助からの思わぬ一言で俺は飛び起きた。
「城下町?!行く!」
 ここに来て結構になるけど、屋敷の外に出るのは初めてだ、って事でテンションMAX!
「でも何で突然?今までは危ないから外出ちゃ駄目!って言ってたのに」
「今日一日、俺様がお休みだから。他の者を信用してないって訳じゃないけど、外出る時は俺様が一緒の時じゃないと不安だからねー」
 ふむ。まぁ忍び隊長としての責任感って奴かな。
 自分で言うのもなんだけど、今の俺って結構な扱いしてもらってるし。その俺がもし攫われでもしたら、その責任って重そうだしなぁ…。
「そろそろ旦那のお下がりじゃなくて、ちゃんとちゃんの着物も買って来いって大将からも言われてるしね」
「別にそんなの気にしないで良いのに」
 そう言ってはみたものの、若干嬉しかったり。部屋とか、部屋にある物は与えて貰ってはいるものの、全部借り物って感じがしてたからな…自分の物があるって何か嬉しいな。
「じゃぁ、汗流したら部屋で待ってて。迎えに行くから♪」
 ウィンク一つ残して消えた姿に、思わず笑みが零れる。何だかんだ言って、結構優しいよな、佐助って。



 井戸の水を被って、湿った髪をそのままに部屋で待っていると、ゆっくりと障子を開けられる。
「ごめんね、ちょっと時間かかっちゃって」
 そう言って顔を出した佐助は、立てた髪を軽く流してフェイスペイントも無くて…完全オフ状態。
 ヤベ…久々にキュンキュン来た…!何だこの男前。流し目なんかしたら堕ちない女は居ないだろ!
 って俺、男に対して何でキュンキュンしてんだ。コイツは俺の男としての自信を色んな意味で根こそぎ奪った奴なんだぞ…恰好良い俺を返してくれ!
「どうしたの?」
「ん、や、何でも無い。それより早く行こう!」
 直視するのが何だか恥ずかしくて、急かすと部屋を出る直前に腕を取られる。
「な、に…?」
「ん?はぐれたら困るからね」
 俺の腕を自分の腕に絡ませてにっこり笑う佐助に、もう何だかこっ恥ずかしさが全開だ!今絶対に顔真っ赤だ…。
「じゃ、行こっか」
 完全女扱いな事にもうツッコむ気力すら起きなくて、半ば引き摺られる形で部屋を出た。





 正直、門番さんの目が痛かったです…。(そりゃ男同志が腕組んでお出かけだもんな)





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