「んぅ…」
 寝返りを打とうとして、腰に鈍い痛みを感じて目を覚ました。
「あ、起きた?」
 いつの間にか布団の中に居て、横には佐助が頬杖を付いていた。
「さす…け」
 ぼうっと眺めていると、佐助の顔が近づいてきて口付けられる。と、同時に何か冷たい物が口腔に流し込まれた。
「ぅ…ふぅ…」
「喉痛いと思って」
 水だよ、と言って微笑む佐助に顔が熱くなる。
「っ、破廉恥で御座る…!」
「何言ってんのー。昨夜の方がよっぽど破廉恥だったでしょーが」
 にたりと笑う佐助にもう何も言えなくて、布団を被った。
「旦那、最高に可愛かったよ」
 それでも聞えてくる言葉に、耳を塞いでやろうか、それとも口を塞いでやろうかとも思った。
 だけど、どことなく嬉しそうな忍の声に自然と自分も嬉しくなって。
「…破廉恥で御座る…でもそんな佐助も…好、き…で御座るよ」
 精一杯の抵抗と仕返しをしてやる。
「えっ…えぇぇ?!」
 珍しく慌てた声に続いて、勢い良く布団を剥がされる。
「旦那、も一回言って?」
「もっ…もう言わぬっ!!」
 嗚呼、自分でも解る。絶対顔が真っ赤だ。
「旦那ー…もう一回言ってくれなきゃ信じられない」
 拗ねた様な口振りに、益々顔が熱くなって。
「おっ…お主は某がどんな気持ちでだ、っ…抱かれたか解らぬのかっ?!」
 恥ずかしさを隠す為に思わず怒鳴ると、今度は佐助の顔が朱に染まった。
 その様子を見て、今度こそ自分までもが恥ずかしくなってまた、布団を被って顔を隠した。
「ね、旦那。怒らないでよ」
 少し、困った様に。だが確かに幸せそうな彼の声音がくぐもって聞こえて。
 小さな衣擦れの音と共に、するりと背を抱き込まれる。
「本当に嬉しいから。俺、狡いからさ…一夜の過ちでも良いやって思ってて」
 彼の言葉に思わず振り返ると、困った様に眉尻を下げて微笑まれる。
「でも旦那も好きって言ってくれて…」
 ふわりと、屈託なくまるで子供の様に笑う。
「旦那の傍に居たいよ。―――…俺の、大切な…弱みにしても良い?」
「っ…!」
 掛けられた声に、涙が零れた。
「旦那…」
 昨夜とは違う、いつもの冷たい手が涙を拭う。その熱に己のそれを重ねて頷いた。
 心地良い力で抱き締められながら、冷たい熱に身を任せて再び二人で眠りに就いた。



 繋いだ手は放さないで。





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