最悪の目覚めって知ってる?
その一、起きたら昨日とは打って変わって「え…え、え?えぇぇぇぇぇぇっ?!」って女が隣で寝てる。
その一、起きたら頭上、もしくは目の前に猫が吐いた毛玉。
その一、起きたら男に腕枕されて、その距離は毛穴見えるんじゃね?って位近い。
どれも嫌だけど、俺的にワースト1の状況が今この身に起こってるんですけど。
目の前には安らかに眠ってらっしゃる宗様の顔。って、顔が近い!!
慌てて距離をとろうとしたら、体中がピシィって!ピシィって言った!加えて有り得ないくらいの鈍痛が腰を襲う。
「いっ!!!!」
思わず全部の動きが止まった。唇を噛みしめて痛みに耐えていると、肩に回される手…起きてやがったのか。
「無茶してんじゃねェよ。慣れてても辛ェんだ」
無茶させてんじゃねーよ!って思わずツッコミたくなったけど、心の中で悪態を吐いておいた。
てか何だろ…元から掠れてる声が寝起きで更に低くなって、やたらエロいんですけど。
なんてボーっとしてたら宗様に睨まれた。
「Don't bite your lip」
そんな事言われても、痛いんだもん。情けない声なんか出したくないし。
なんて思ってるとぐいっと顎を掴まれて、宗様の親指が、無理矢理に唇をこじ開けられる。
「傷付くだろ」
…何この王子様。てか俺女じゃないんだから、そんなヤラシー開け方すんなよ。
「今日はゆっくり寝てろ。体解す為に女中寄越してやるから。OK?」
「Yes、Sir」
ぼふっと枕に顔を押し付けて、ひらひらと手を振った。
頬に柔らかい感触がして、ちゅ、とリップノイズ。…だーかーらー、女みたいに扱うのやめれって!
反論する間も無く、衣摺れの音と共に隣の温もりが消える。
「朝餉も運ばせる」
それだけ言って宗様は部屋を出て行った。
…俺も彼女(とか)に同じ様な事してたけど…気障だったなぁ、俺。(あ、「とか」ってのは気にしないでね)
自分にされて初めて気付いた。もう絶対止めよう。
重い溜息を一つ吐いて、自分の横の空間を指でなぞると、微かに残る温もり。
昨日の事、大事な所には一切触れなかったな…。
「…何で…抱いたんだよ…」
零した問に、答える人はここには居ない。何だかそれが無償に苦しくて、衾を頭からすっぽり被った。
「失礼します、様」
女の声が静かに、だが確かに部屋へと通る。
返事が無い事に女がためらいがちに障子を開けると、大きくはないが盛り上がった衾。
寝ているのだろうか。
そうっと部屋へと足を踏み入れ、足音を立てずに小さな山に近付く。
静かに衾を捲ると、子供の様に寝息を立てる炬の姿。僅かにだが寝汗をかいていて、額に絹糸の様な黒髪がへばりついている。
スっと髪を梳くと、擽ったそうに身を捩る。だが、起きる事はないようでまた小さな寝息が規則的に響く。
「…不用心ですね…」
女中は微かに笑みを浮かべると、衾を整え女は静かに部屋を後にした。
部屋は再び静寂に包まれた。