ピクリ、と自分の指が軽く痙攣した事で目が覚める。
 ぼんやりと焦点を合わせるも、薄暗い部屋ではそれも容易な事では無く。ゆっくりと頭だけを横にすると優しい声が掛けられる。
「起きた?」
 低く、柔らかい声が耳に気持ち良くて、不覚にもうっとりと目を閉じてたらしい。柔らかく髪を撫でる指に目が覚めた。
「あ、れ…俺また寝てた?」
「ん?ほんの一瞬だったよ。はい、お水」
 嗄れた喉に冷たい水が心地良い、ってか生き返るー!直ぐに空っぽになった湯呑を返すと、熱い茶を淹れてくれた。
 いつの間にか仄かな灯りが燈されていて、佐助の姿がぼんやりと暗闇に浮かび上がる。
 いつもの迷彩では無く着流しを纏い、逆立てた髪は重力に従って落ち着いている姿。…ほんと恰好良いよなぁ…。
「どうしたの?」
 ぼーっと見惚れていたら微笑まれて、思ってもいなかった表情に言葉が詰まる。
「何でも、ないけど―――…」
 チラリと宗様の事が頭を過ぎる。また、訊いたら黙るのかな、佐助も…。でもこいつの場合、猫耳消す為に抱いたって感じだよな。最初に言ってたし。
「あ、そうだ」
「何?」
「これ。本当は渡そうかどうか迷ったんだけどね…」
 佐助が差し出したのは、宗様から貰った小刀。そう言えば、ちゃんと持ってたんだよな。使わなかった、ってか使えなかったけど。
「体、清めた時に懐から出てきたんだ。…大事な物、なんじゃないの?」
「大事な物…って言うか…」
 そりゃぁ貰い物だし、大事にするべきなんだと思うけどさ。…でも俺、本当は刀とか…人を傷つける覚悟なんて出来てない。
「…俺、さ。甘いのかも知れないけど…出来れば使いたくないんだ、刀とか…人を傷つける物…」
 シンと静まり返った空間に、俺の声だけが震えて響く。ちらりと佐助を見れば、何も言わずに唯見つめるだけで。
「俺の居た世界は、決して平和ではないけど、でも少なくとも俺や俺の周りの小さな世界は平和だった」
 友達と喧嘩する事もはあっても、刀や銃を持って戦場に突っ込んでく事なんて皆無だ。
「だから…俺は…」
 言葉が見つからなくて、口を噤むと、佐助がスっと立ち上がる。
「…さ、」
「甘いね、ちゃん」
 驚く程冷たい声が頭上から降ってきて思わず見上げると、ぞっとする程冷たい、暗い目。
ちゃんがそう思ってても、敵は君を狙って来るんだよ。…戦わなくて、どうするの」
「そんな事…」
「俺様達だって、いつでも護ってあげれる訳じゃないんだよ」
 そんなの、解ってる。でも俺は…俺の能力は何の為にあるんだ。
「…」
 頭が回らない。考えれば考える程、感情がごちゃ混ぜになって言葉が出てこない。そんな俺を見て、佐助は溜息を零すと俺の手に小刀を握らせた。
「佐助…」
ちゃんの力、何の為にあるの?―――死んでしまったら何も出来ないんだよ」
 そう言い残して、佐助は部屋を出て行った。急に静まり返った部屋に、何故か泣きそうになって。グッと奥歯を噛み締めて堪えた。



 俺の能力は何の為にあるの…か。
 俺は人を傷つけるよりも、人を助けたい。でもその為に、自分の身を護る為に人を傷つけるなんて、矛盾してるじゃないか。
 ぐるぐると、終わりのない追いかけっこを永遠としているみたいだ。いつまで経っても答えなんか出ない。
 ずしりと重い、手の中の竜。宗様から受け取った時、俺は何を考えてた?覚悟ならあの時出来てた筈なのに―――…。
 ゆらゆらと揺れる、頼りない灯りはまるで俺の心の様。…俺は一体どうすれば良い?