船から降りて一息つく暇も無く、元就の元へと急かされる。何か…まだぐらぐら揺れてる気がするんですけどー。
 つか…ここよく見たら厳島じゃん?あの鳥居とか見た事ある!
 あれ?そう言えばゲームでは元親と元就ってここで戦ってたような…?でもまぁ…俺が知ってるのはおかしいし、迂闊には聞けないよな。
 結構歩くかと思えば、城は思ったよりも近くて。固く閉ざされていた城門が開くと、元親は勝手知ったる何とやら。ズンズンと進んでいく。
「元就!」
 必死に着いて行くと、元親の背中越しにこちらを鬱陶しそうに見る元就の姿があった。
「いちいち煩い奴だ。少しは静かに出来ぬのか」
 待ってました生ツンデレ!とか思ったのも束の間。元就の顔には疲労の影が色濃く見てとれた。
 その顔色は元親も一瞬言葉を失くす程だったが、すぐにいつもの調子で声をかける。
「随分待たせちまったみてぇだな」
「誰が貴様等。それで?神の子は手に入ったのか?」
 解ってはいたけど…けど!俺が物みたいな言い方はやっぱグサっとくるぜ!
「ひねくれもんの誰かさんと違って、素直なは手を貸す事を快く承諾してくれたぜ」
 な、!と肩を押されて部屋へと入れば、元就の鋭い視線が突き刺さる。
 ってか…ひねくれもんってレベルじゃなくね?結構あの冷たい目怖いんですけど…!下げた頭を上げれねぇ…。
「この童が神の子だと言うのか?」
 わ…わっぱ!16歳の俺を童扱い!!ナリ様だって俺とそんな変わんなくね?
「神の子ってのは言いすぎだから。精々治癒の力がある位で…」
「元より噂等そこまで信じておらぬわ。治癒の力があるだけでも充分だ」
 むっきー!何だよ!すんげぇ腹立つー!!いや、まぁ待て、落ち着け俺。ナリ様の口の悪さは照れ隠しなんだ。怒った方が負けだ。
 とりあえず、とナリ様のど真ん前に座る様に勧められて、渋々座る。横には元親がどっかりと腰を据えた。



「んで、豊臣の動きは?」
「今の所は静かだ。我の考えでは…動くのは三日後」
 そう言ってナリ様は机上に広がる地図を采配で指す。覗き込めばそこは海のド真ん中だった。
「海上戦…か。となると…はどうするんだ?」
「本船での待機になるだろうな。流石に敵船に乗り込んで治療する訳にはいくまい」
「でも…怪我人を本船までどうやって…」
 俺が口を挿めば、ナリ様は人を小馬鹿にした様な…てかハッキリと馬鹿にした笑みを浮かべた。
「貴様が言わずともそれ位の事、我とて考えている」
「一体どうするつもりだ?」
「本船と敵本船を繋げる」
 静かに告げられた言葉に、俺と元親は息を飲んだ。何つー強攻策…流石智将と言うべきか、俺なんかが考えもつかない様な作戦だな…。
「でもよぅ…繋いじまったら敵もこっちへ渡り放題なんじゃねぇか?の護衛はどうする」
「我の策に抜かり無いわ。護衛にはこやつを付ける」
 こやつ?部屋には俺等三人しか居ないんですけど…?とか思ってる間にもナリ様はスっと立ち上がり、障子を開けた。



 庭に面した濡れ縁に座っている姿。それは後姿だったけれど、よく知った人物で…。
「お前…!」
 元親の声に派手な髪飾りが揺れて、振り返った男の顔には勝気そうな笑みが浮かんでいた。
「よっ、西海の鬼!久しぶりだなぁー!」
「前田の風来坊じゃねぇか!」
 えーっと…お前等って仲良し設定あったっけ?つか…何で慶次が安芸に居る訳?
「お、こっちの美人さんが神の子かい?」
 美人…?いやいやいや、そこは"美形"って言うべきじゃね?とか思いつつも一応会釈する俺。
 さっきからナリ様の冷視線が痛い訳よ。波風立ててまたあの毒舌吐かれるのも嫌だし、な。
と言います、どうぞよろしく」
「よろしくな!」
 言って慶次は爽やかな笑みを浮かべて、デカい手で俺の手を取った。ぐぁ!握手のつもりなんだろうけど痛いって!
「下らぬ挨拶は済んだか?そろそろ話を続けたいのだが?」
 元就様の冷たい言葉で俺達は一斉に姿勢を伸ばしたのだった。