あれから暫くナリ様の独擅場が続いて、軍議が終わる頃にはもう皆ヘトヘトだった。
「つ…っかれたー!」
侍女さんに案内された部屋に着いた途端、俺は行儀悪く畳の上に寝転がった。ごろりと仰向けになって天井を見上げると、先程の元就の言葉が耳に返る。
「敵船と本船を繋げる…かー。まるで赤壁の戦いだな」
出典は三国志演義だっけか…。この時代に翻訳されてたのか?そもそも翻訳されてたとして、小説内の策を元就が採用するとはな…。
「…ま、BASARAだし」
今更リアルじゃないとか言っても無駄だよな。そんなことより大事な事が俺にはある。
「…MP補給しなきゃヤバいよなー…半月位補給してないし…。問題は…」
そう、問題は「誰にするか」だ。元就様は論外だろ。鼻で笑われるか、白眼視されて終わりだろう。
慶次―――…恋だ何だと煩いし、避けた方が無難だよな…って事は残るは…。
「元親、か…」
元々頼れるアニキだし、事情を話せば一番力になってくれそうな気はする。でもなー何が悲しくて同じ男に頼まにゃならんのだ!
「うー…」
ごろりとうつ伏せになり、畳の目を指でなぞる。悩んでても仕方ない…か。力になるって俺自身が決めた事だし、その為には補給は欠かせない。
「よっし!」
気合い一発、起き上がると元親の部屋を訪ねるべく、俺は部屋を出た。
「…元親、入っても良い?」
「お、か。どうした?」
内側から襖が開けられて、部屋には元親一人だと確認する。
「あのさ…ちょっと…」
「まぁ、立ち話も何だ。入れよ」
人の良い笑みを浮かべ、部屋へと招き入れられると、微かに酒の匂いが鼻を掠めた。
「お酒?」
「おぅ、も一杯やるか?」
杯を差し出されて逡巡したものの、俺は素直にそれを受け取った。酒の力を借りてって奴だ。
波々と満たされた透明な液体をグっと一気に呷れば、カっと腹の奥が熱くなる。
初めてではないが、普段飲むそれよりずっとアルコール度が高い酒に、顔が熱くなりすぐに火照るのを感じた。
「良い飲みっぷりじゃねぇか。…で、何か用があったんじゃないのか?」
「あのさ…ちょっとお願いがあるんだけど」
早くも呂律が怪しくなり、思考回路がぼんやりと朧気になる。
「元親さ、俺を抱いてくんない?」
自分の口から零れた言葉に、自分自身訳が解らなくなる。あれ?元々、抱かれるつもりはなかった筈なのに…。
「…?」
元親も驚愕に目を見開いて、波々と注がれた酒が零れるのにも気が回らない様だ。
「あのね、治癒の力を使うには精が必要でね、抱かれるか飲むかしないといけないらしくて…」
だらだらと切れの悪い言葉を垂れ流しつつ、俺は元親の手元で大分少なくなった酒をもう一度呷る。
「元親しか頼める人いなくて…」
そう言って至近距離の元親の顔を見上げると、相変わらず目を見開いていた。
「駄目…?」
なら仕方ない。誰か違う人…慶次にでも頼むしかないかとフラつく足で立ち上がろうとすれば、大きな手で腕を掴まれる。
「、何だかよく解んねぇけどよ、とりあえず座れ。慶次の所に行くなんて言うんじゃねぇ」
あれ、俺声に出してた?グラグラと揺れる視界に、苦い顔をした元親が映る。
「も…と…んっ」
グイと腕を引かれて、厚い胸の中に倒れ込んだ所に熱い唇を重ねられた。
「…誘ったのはお前だからな…」
普段より一層掠れた声が耳元に落とされるのを、漂う意識の中で確かに聞いた。